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最高裁判所第三小法廷 昭和53年(オ)823号 判決 1981年4月28日

上告人

藤森宏之

右訴訟代理人

海地清幸

被上告人

和田太計司

被上告人

矢島すゞ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人海地清幸の上告理由第一点について

財団法人を設立するためにされる寄附行為は、相手方を必要としない単独行為であるが、その一環をなす財産出捐行為が、現実には財団法人設立関係者の通謀に基づき出捐者において真実財産を出捐する意思がなく単に寄附行為の形式を整える目的で一定の財産を出捐する旨を仮装したというにすぎない場合においては、右事実関係を実質的に考察し、当該寄附行為について民法九四条の規定を類推適用してこれを無効と解するのが相当である。これと同旨の見解に基づく原審の説示及び判断はいずれも圧当として肯認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第二点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(寺田治郎 環昌一 横井大三 伊藤正己)

上告代理人海地清幸の上告理由書記載の上告理由

第一点 被上告人和田及び矢島に対する請求について

法令(解釈)の違背、

一、原判決は、財産法人設立の関係者が当初から虚偽仮装の寄附行為をして設立認可手続をとることに合意した場合、民法第九三条、第九四条の適用(又は類推適用)があるという。

然し乍ら、財産法人の寄附行為(財産出捐行為)には民法の右法条の適用はないと解すべきである。

二、被上告人らが虚偽の出捐行為をなした人形博物館は公益法人であり財団法人である。

その設立手続で寄附行為に被上告人らの寄附に係る財産が記載され(民法第三九条、甲第六号証)これらにつき、主務官庁たる厚生省の許可を得て設立されたものであつて、出捐された財産を基本として事業が行なわれるものである(資産の額は登記事項、甲第四号証)。

従つて、資産の充実については他の法人に比し特に厳格性を要求されるものである(商法第一七五条第五項参照)。又、禁反言の原則からも、虚偽・仮装の主張を許すべきものではないのである。

本件においては、被上告人らには強迫その他特に救済しなければならない特段の事情もないのである。

以上の次第で、原判決は法令の解釈を誤つたもので破棄を免れない。

第二点 被上告人矢島に対する請求について<省略>

上告代理人海地清幸の上告理由補充書記載の上告理由

一、上告理由書記載第一点の補充

(一) 財団法人の寄付申込行為は団体的法律行為であり且つ要式行為である。

その性質上民法第九四条は適用の余地がないのである。

又商法第一七五条第五項を類推適用して民法第九四条の適用を否定すべきである。

(1) 商法第一七五条第五項は民法第九四条の適用排除を明定していないが、判例・学説は、株式の申込及び引受けについて民法第九四条の適用を否定している(昭和29.12.28福岡高裁判決、高裁民集七―一二―一一四七、38.10.31東京地裁判決、下民集一四―一〇―二一七二、学説石井編註解三一九―四四〇、伊沢註解二七七)。その理由とするところは、行為の性質及び商法第一七五条五項の趣旨即ち若し右適用排除の規定がなければ、真実株主となる意思のない者と会社と結託して財産的裏付の欠ける外観だけのもので会社の信用を増そうという意図を助長し、その反面、会社の財産的基礎を強固にすることの大きな障害となり、広く一般取引の安全を害する結果となるからである。

これは、株式申込又は引受行為が、団体的行為であると同時に、会社財産のみが責任財産であるという株式会社の財産増加をもたらすという機能を顧慮したものである。

(2) 財団法人の寄付申込行為は、その性質及び機能の点において右株式の申込と共通したものである。即ち財団法人は、財産の集合体それ自体に法人格付与の基礎があり、右寄付行為は、財団の財産構成化に機能するものであり、又要式性を有するものである、又財団法人の目的の公益性と相伴つて財団法人の設立・運営について厳しい監督制度(設立に際しての主務官庁の許可、裁判所の関与)が存在するのも、財団法人の財産的基礎を確保し、健全な運営を計ろうとする事に存在する。

それ故に、財団法人に対する寄付申込についても、法人の財産的基礎の充実を旨とする商法第一七五条五項の規定を類推して、民法九四条の適用を否定すべきものである。

若し寄付申込について民法第九四条の適用を認めれば、寄付申込者の保護ははかれるが監督官庁の監督の実効性及び財団の健全な運営を維持することは困難となり、又財団法人というその名称からくる信用並びに財産を信用して財団と取引した者の保護をも計れぬという不当な結果となるのである。

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